【動画で就活する時代に】
YouTubeや動画配信が増々流行っています。
いまや「動画」は若者の就職活動さえも変えようとしているのです。
エントリーシートはもういらない。
時代は動画で就活する世の中に変貌しつつあるのです。
〈動画で就活〉
動画での就職活動を簡単に説明すると、次のような流れになります。
就職活動をする人が自己PR動画(30秒)を自分で撮影します。
それを登録します。
企業側も自社のPR動画を登録します。
お互い動画を観て気に入った企業、あるいは学生にメッセージを送り、就職または採用する仕組みです。
このマッチングアプリは開始たった4ヶ月で1500人の学生と企業50社が登録しました。
企業側がこのマッチングアプリを使用する理由は、長文のエントリーシートを求めると、応募率が下がってしまうからです。
名の知れた大企業ならまだしも、世間で知られていない小さなIT企業などでは、優秀な人材を確保することは事業拡大、会社存続のためには至上命題なのです。
〈“就活動画”のメリット(学生側)〉
「面倒なエントリーシートを書く手間が省ける」
「自分で撮影するので、自分の良いところを出せる」
いまの若者は動画世代と言われていて、“動画を観ること”と“動画を撮影すること”には慣れているのです。
動画による自己PRならば、自分で編集して、自分が見せたいところを見せられるのです。
〈“就活動画”のメリット(企業側)〉
「人柄やコミュニケーション能力が一目で分かる」ことです。
エントリーシートや履歴書などでは文字情報なので、人間性やコミュニケーション能力は見えづらいのです。
それがPR動画だと「百聞は一見に如かず」で、感覚的に分かってしまうのです。
例えばあるベンチャー企業の経営者は、就活動画マッチングアプリで採用している理由として、学生のペルソナ(人格)を見るときに、「目力が強い人。人の目を真っすぐ見て話す人の方がやり抜く力が強い傾向がある」と述べています。
【動画就活の背景】
就活は大変なエネルギーを必要とします。
エントリーシートを何枚も書き、数十社に応募して、やっと内定をもらう。
汗水たらして勝ち取った就職先。
なのに、「あれっ、なにか違う」「こんなはずじゃなかった」と違和感を覚えることもしばしば。
さらに「思っていたのと全然違う」、ひどいと「騙された」と思うことも。
学生の就職活動に関しては、こんなデータがあります。
「3年以内に3人に1人が就職した会社を退職する」
企業側としても、書類選考ではどうしても人格まで見抜けないという課題を抱えています。
ですから、書類選考の時点では学生時代の成績、実績などを中心にして判断せざるを得ません。
しかし、社会にでると学生のときに勉強が出来たことと仕事で実績を上げることは、かならずしも一致しません。
仕事には他の人との共同作業という面があるからです。
つまり、いくら知能が高くても人間としてのコミュニケーション能力に問題があると仕事は出来ないのです。
ですから最近の企業は押なべて就職活動する学生に「コミュニケーション能力」を求めています。
これは企業体としての危機管理にあたります。
「期待したほどではなかった」というミスマッチを起こしたくない。
「こんな性格の人だとは思わなかった」
という性格的に問題がある人を採用したくない。
ということなのです。
【動画で就活できるマッチングアプリ】
『株式会社ビデオマッチング』
ビデオマッチングは就活生と企業それぞれが自己プレゼンテーション動画をもとにして、双方向にアプローチできる就職活動SNSサービスです。
就活生の「もっとストレートに想いを伝えたい」「相性のよい企業と出会いたい」「人柄を知ってほしい」という想いと、
企業側の「もっと自社を知ってほしい」「相性がよい学生と出会いたい」「会社の雰囲気や社風をストレートに伝えたい」という想いを動画で結びつけたのです。
学生側は、自分の得意なハッシュタグを選択し、そのお題に沿った動画を撮影することができます。
企業側は、自社の会社紹介や社員紹介、職場の雰囲気などさまざまな自社アピールが出来ます。
就職活動の問題点に、現実とのギャップで思い悩み、入社早々辞めていく若者が後を絶たない現状があります。
その学生と企業との採用ミスマッチを避けるために、双方向でアピールすること(動画)で就活のミスマッチを解消しようとする動きなのです。
【動画で就活するデメリット】
とても便利でメリットばかりのように見える就活動画ですが、自己PR動画での就活には落し穴があります。
それは、まず面接で現れます。
学生側は、
「面接で上手く話せなかった」
「動画ではうまく話せたのに面接ではうまく伝えられなかった」
と思い。
企業側は、
「自己PR動画とは印象が違う」
「自社の雰囲気や理念が正しく伝わっていないのでは」
と思う。
これはなぜか?
学生の自己PR動画は、「ひとりでしゃべる」というものだからです。
つまり、一方的なコミュニケーションなのです。
相手の反応を見てのコミュニケーションではないからです。
(撮影した動画は)
はっきり言ってしまうと目立ちたがり屋、自己主張になれた人のほうが有利なのです。
“盛る”という言葉があるように、多少の演技や誇張もあり得ます。
さらに会社に入って仕事をするということは様々な性格の人と接するということです。
自分にも感情があり、相手にも感情がある。
自分の価値観と相手の価値観が一致しないことがある。
自分のやりたいことと会社がさせたいことが違うことがある。
学生時代だと口もきかなかったような人間と会話し仕事を進めなければならない。
ですが、その人が持つ能力やペルソナ(人格)はある程度接していれば自然と伝わってしまいます。
そこに演技やデフォルメは通用しないのです。
就職後にそうしたことが待ち受けているのです。
エントリーシートよりは、自己PR動画のほうがダイレクトに自分をアピールすることが出来る。
会社案内より、会社のPR動画のほうが会社の雰囲気や社員をダイレクトに伝えることができる。
たしかにそうです。
ただ、それは就職したい学生と採用を考えている企業という需要者と供給者との関係において成り立っていることなのです。
就職後は、その関係は変わります。
あくまでも就活の時点で、「便利になる」「書類よりもダイレクトにアピールできる」ということにしか過ぎないのです。
それを間違えると、いままでと同じような学生と企業のミスマッチは起きてきます。
(ただし、自己PR動画のほうが分かりやすく、便利なのは言うまでもありません)
面接や実際の仕事は、人と人が目の前にいて、相手の感情も直接感じ取りながらコミュニケーションを取ります。
相手の反応、相手の個性と合い対峙しながらコミュニケーションを取らねばならないのです。
ですが、自己PR動画は自分一人だけの世界なのです。
いくらカッコよくアピールできても、苦手な相手を前にしてのコミュニケーションではないのです。
現実の社会(職場)では、学生時代の気の合った友人とだけ過ごすということは出来ません。
性格や考え方、価値観のまったく違った人と交渉したりチームを組んだりして仕事をしなければなりません。
それが本当のコミュニケーションなのです。
超訳すると、「相手のいない自己完結の世界」と「相手のいる生身の人間同士の世界」との違いといえます。
動画での就活は、その違いのギャップまでを完全に解消できるわけではないのです。
そこが落し穴なのです。
【個人的な意見】
世の中はなんでもかんでも動画、動画、となりつつあります。
いまや、職務指導まで動画で行われています。
最近の若者は“活字離れ”が叫ばれています。
ですが、社会全体、日本全体そして未来社会を考えると、活字文化を大切にすることが必要なのです。
高度な文化は活字に頼るからです。
動画は見れば一目で分かる、という優れた特質を持っていますが、努力して文字を目で追って頭を働かせる学習なくして人間の知性を向上させることは出来ません。
動画は楽な道であり、動画が活字を席捲する社会となると、文化の低下が起き始めます。
すると、社会全体は衰退していってしまいます。
活字文化を残すことは人類にとって大切である。
活字文化こそ知性を生み、高度な専門知識を生み出す元である、と言っておきたいのです。
動画と活字の併用する社会が新しい時代の文化になることを期待したいと思います。
お読みくださり、誠にありがとうございました。